2012年03月06日

第4話 竹の村里

(2012/03/06)
第4話 竹の村里

 その人は、木陰に涼を取った。
流れ来る汗を拭き、目前には、
青空のもと、遠く連山に城を見る。

 我が青春の地、こよ丘(この丘の
こと、このの意)の初夏、少し離れた
背後ろには、青い竹藪が見える。

 ここは、竹薮があちこちにある。
風が吹くと、その竹藪の上が揺れる。
こよ丘の地は、小さな丘がたくさんあり、
上り下りの道が曲がりくねっている。

 竹の青き、ますぐ生え、竹薮から
足元に雀が飛んで出る。そんなところである。

 歩み来る女性に手を振る。
微笑んで、手を振り返す。

 都会の煩雑は少しもなく、竹の村里は
別世界である。忘れた遠い日々を、かすか
思い出す。どこへ行ったのであろうか、
私の思い出すことのできない過去、しかし、
過去はある、思い出そうとしても思い出せない
過去である。ある部分は、全くわからない、
その人の過去である。記憶に全くない。
思い出そうとすれば、かすかな頭痛を覚える。
 その人の大事な過去である。遠い彼方に
しまわれたのだろうか。

 少したち、汗がひき、女性と短い会話をし、
一緒に学舎へ向かった。思い出せない過去を
探ることも消えて、同道を楽しむその人に変わる。

 「いよおっ」と、友が声をかける。「おおっ」と答える。
丘の日々は、長くもあり、短くもある。

 赤黒い空に、竹薮の上の方を、鳥の一群が
飛び去っていく。竹の村里の夕暮れである。
(2012/03/06)

 
 
posted by 若軍 at 15:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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