2012年01月26日

第18章 敵前突破

 幾日も歩き、山を越え、そこは中原である。
原を歩き、山を目指して歩いてきたところである。

 山を登るに、道はない。ただ、岩と土とがあるだけである。
急なところで、立って上れず、身を屈め、岩を掴み、登りに
登る。左下をみれば、切り立った断崖である。降りるに
降りられず、登るしかない。登り登り登る。背を下に、
仰向けになれば、そのまま、下へ引きずられ、落ちていく。
そんなところである。そんな中、水を一口含み、少し仰向け
になり、また、登る。
 夜になれば、星は手近くに、音何一つ聞こえず、天だけが
ある。

 そうして、登り越え来た中原である。また、歩く。原を中程少し
越えたところ、天より、馬があらわれた。その人は、御父上のことを
馬に尋ねた。知っているという。百人力を得て、その馬とともに歩む。
足元には、足首ほどの草も生えている。

 左手に山を見る。我が遠く前方に敵兵を見ゆ。300人程の大軍
である。なおも、その人は馬と共に歩いていく。兵に見つからず、
前方の敵のほうへ歩いていく。あの敵の向こうには、探す御父上が
おわす。そう思い、敵のいる前方へ近づいていく。

 前に岩が見える。その岩までたどり着き、そこへ身を隠した。
馬も意を得て、身を低め座っている。馬もその人も、目を凝らし、
見るは敵である。馬も敵情をつぶさに見ている。幾時か、そこを
出で、身を低め、敵を警戒し、歩を前へ進める。

 前方を見れば、高い草むらがある。敵も近くにいる。あの草へ
一旦隠れ、敵を見て、一気に駆け抜けようという、その人の戦法である。
できるだけ敵に近づき、一気に駆け抜ける。
それまでに、敵に見つからぬよう、馬とともに行くのみである。
無事、草叢へたどり着き、馬を低め、その人も、身を屈めた。
じっとそこで、敵を見る。大きな兵が一人、こちらへ近づいてくる。
このままであれば、見つかる。できるだけ近くまで引き寄せる。

 10メートルくらいのところで、その大きな兵が止まった。そして、
横を見た。瞬間、その人は、馬に乗り、一気に敵の前方を
駆け抜けていく。もちろん、敵もその人に気づいたが、なすすべもなく
、唐突なことで、唖然と見ているだけである。幾人かが、馬に乗り、
その人の後を追うたが、その人の方が早く、距離はどんどんあいて
いく。馬はあらん限りの速さで走る。馬の動きに合わせ、馬を走りやすく
体を処する。

 随分走ったところで、前方に、大きな石の上に、我が御爺さんが
こちらを見ておられる。そこまで、たどり着き、御父上のお顔である。
御手を挙げて笑って向かえて下さった。無事を喜ぶその人である。

 これが、その人の、敵前突破である。幼児の姿で、戦さ中のその人である。
子供が戦争に来ている。これが、中国の言葉である。その人の生まれるまでの
、生前の生である。その人は、戦って生まれて来たのである。その戦いを
幼児期に、夢に見たという。その人の人生は、二度の人生である。
その人は、今、丘にいる、二度目の人生を誇らしく、楽しく生きている。
2012/01/14
posted by 若軍 at 20:52| Comment(0) | 小説
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